踏切 踏切が姿を消してゆく 線路と交わる点が消えてゆく なぜ関わり合いを避けるように ゆずることを卑下するように 小さな優しい待ち時間を 不便でいらいらするものに変えてしまうのだ 線路の下をくぐるときは 暗渠になった下水のように 暗くほこりっぽいバイパスを 追われるように早足で通り抜けるのだ 線路の上をまたぐときは 見知らぬ町の空間のように 前を見ながら通り過ぎてゆくのだ 走り去る電車の中でさえ 誰もが耳をふさぎ 異次元の入り口に語りかけ 遠い想像の世界に住んでいる ただ 踏切の警告音がなつかしいだけではない 下がる黄と黒との棒を惜しむだけではない 踏める線路の鉄の感触が好きなだけでもない 踏切が姿を消してゆく じっと待つ顔が 通り過ぎる電車の車両を数える顔が消える 電車の窓に吸いついた顔との出会いが消える 通り過ぎた後の 踏切の向こう側からやってくる 幼い頃の自分との再会を失うのが哀しいのだ |
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