***  3月の詩  ***

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 ひなまつり


ひなはひっそりとやってくる
暗い眠りの中からやってくる

いつもまだ冷たくって
くすんだ色合いの中にやってくる

ほらあの匂い
覚えている
からまったあまずっぱい匂い

ほらあの声
覚えている
おしゃまだったあの子の声

 ああちゃんのうち
 おひなさまには
 ひなあられと桃の花
 かざるんだ

ひなはそっと置かれた段の上で
静かに前を見つめている
なにも変わらないようで
なにかがゆっくりと変わったようで

匂いも声も少し違う
そっと顔に触れたあの指も少し違う

あの子は
どこ
神隠しにあったのかしら
良く似た別の子を連れてきたのかしら

小さなああちゃんはどこへいったの

ひなは柔らかなぼんぼりの明かりの中で
じっと目をこらしてさがしている



 赤いレインコート


集団登校の小学生
信号待ちの列の中
真っ赤なレインコートの子は
だあれ

転校生
誰かの妹
名前も知らないくせに
ほら
いつかどこかで見たおぼえ

信号が青に変わって
黄色い旗がさっと振られた
みんな色とりどりのカサを回して歩きだす
でも
あの子は一人立ちどまる

どうして一緒に行かないのかな
誰かが振り返って気がついた

そうだ
あの子だ
いつもの子

雨に洗われきれいになった
赤い箱の消化器ボックス
こんなに鮮やかな赤色だったんだ

みんな大きく笑って過ぎた
次から次へとカサを回しながら

一雨一雨暖かくなって
長靴びしゃりと水たまり
赤いあの子も笑っているよ


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