***  10月の詩  ***

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 海のうしろ


ホームの乗車位置3番
一番前に立って顔をあげると
ながしかくの海
たしか不動産屋の広告

どのドアの位置に並んでも
変わらないのだが
にせものでも海を眺めるのはいい
通勤時のひそかな楽しみ

少し褪めた色の海が
ある日消えた
広告主との契約が終わったのだろうか
海との契約が終わったのだろうか

朝陽の中での奥行きは遠眼鏡
渋い枠と輝く斜めの骨格を通して
対岸のホームに浮き上がる人たち

海のうしろは
こうして骨格に支えられいたのか
くりかえす潮騒も波も
一枚ぺろりと剥がしたなら
はてしなく続く骨格

その向こうの陽だまりは
水平線という名の長いホーム
一列の白い雲のように電車を待つ

いつかふとだれかが
そっと目の前に海をとどける
海をぺろりとめくる合図で
電車は音もなくすべりこんでくる
風の止まったホームに

自分との契約が終わったのだろうか
海との契約が終わったのだろうか








10月の詩 海のうしろ

10月の詩 海のうしろ

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