***  7月の詩  ***

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 ためらう


ためらう
はじめてみつけた路地の入り口で
たちどまりのぞきこみ
昨夜の雨にまだ濡れた下草に

ためらう
ビロードの白をうつむいて
時間の茶色の染みを落とし
だからこそ
よりいっそうの芳香を放つ
くちなしの花にのばす指に

ためらう
思い出をさかのぼる平舟の
小さな逆波をさとすように
忘れてしまった笑みの影を
ひとつひとつたしかめることに

ためらう
このわずかな
とおりすぎれば数歩の距離の
とおりすぎれば数分の間合の
たしかに生きているはずという
はがゆさ

ためらうことなく
角切りのしゃきしゃきした音に
前へ前へとさそわれるリズムに
くりかえしの毎日をきざむ生き方の
いさぎよさにあこがれる

この梅雨空があけたあとの夏空の
どこまでもかげりがない
はるか高い空間の
神の教えにも似た気高さにあこがれる

それでもわたしはためらう
わたしのしんのリズムに逆らっても
ここでしか出会えない
混沌とした鈍色とむきあうために








7月の詩 ためらう

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